注目記事: 若者は、なぜ「無業状態」に陥ってしまうのか

注目記事: 若者は、なぜ「無業状態」に陥ってしまうのか






若者は、なぜ「無業状態」に陥ってしまうのか

東洋経済オンライン 9月18日(木)6時0分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140918-00048187-toyo-bus_all&p=1


一度「仕事」を失ってしまうと、もう戻れない……。今の日本社会は、一度失敗してしまうと極度に再チャレンジしにくい仕組みになっている。『「10年後失業」に備えるために読んでおきたい話』の著者、城繁幸氏と、『無業社会-働くことができない若者たちの未来』の共著者、西田亮介氏が、日本の「失業・無業」の厳しい実態と、社会的な対応策、そして、「私たちが今できること」を語り合った。 


西田:新刊のタイトルにもした「無業社会」とは、字面としては、ただ単に「仕事がない社会」ということになります。でも、本書ではもう一歩踏み込んで、「仕事を失いやすく、誰もが無業状態になる可能性があるにもかかわらず、いったんその状態になってしまうと抜け出しにくい社会」のことを「無業社会」と呼んでいます。

15〜39歳の若年無業者の数は、200万人にも上るわけですが、これはもう「一部の若者の問題」ではなくて、日本社会全体で解決に知恵を絞るべき「社会問題」だというのが僕たちの認識です。

城:無業状態に陥る人というのは、何か特徴があったりするのでしょうか。

■「怠け」や「やる気不足」で片付けていいのか

西田:実は無業の人とそうでない人の間に明確な線引きはできません。「無業状態になった」と言うと、日本では基本的に「働かないあなたが悪い」という話になります。「ニート」が注目された時もそうでしたが、多くの人は「どうせ家に引きこもってゲームをしているだけだから仕事が見つからないんでしょう」と思っている。

でも、厚生労働省の統計を見ても、僕らが独自に2333人にアンケートした結果を見ても、無業状態になるきっかけとしては、病気とケガが主たる原因となっています。つまり、必ずしも自己責任で片付けることはできない理由によって無業状態に追い込まれている人が多い現状があります。

学歴の観点からみても、四大卒であっても無業状態に陥ってしまう事例はたくさんあります。対人関係の構築が苦手な人が営業職に配属されて何もかもうまくいかなくなってしまったり、就職してみたらブラック企業で、その会社を辞めたら次の就職が見つからなくなってしまったり……。予見不能で、誰にでも「無業状態」に陥る可能性はある。これは個々人の「怠け」や「やる気不足」で片付けていい問題ではないはずです。

西田:あと、僕たちの調査では、(無業状態に陥っている人は)まじめで、しかし自己評価が低い人が多いという結果が出ています。これも不真面目さを追求する通説とは離れた、意外な知見ではないでしょうか。

城:無業状態に陥る可能性は誰にでもある、というのはよく分かりますね。考えてみると、私のまわりにも大企業に就職してバリバリ働いていたのに、ふとしたきっかけで会社を辞めたと思ったら、その後連絡がつかなくなった……という人が何人かいます。そうなってしまう人たちと、そのまま働き続けている人たちの差がどこにあるのかと言われてもわからない。

■資格よりも、組織や機会が大事? 

城:実は、私自身も20代の中頃に「もう仕事を辞めて、バックパッカーにでもなろうかな」と思った時期があるんです。それで週末に実家へ相談に行ったら、月曜日の朝になって母親から泣きながら「今まで何のためにお前を育ててきたと思ってるんだ」と電話がかかってきて、一週間ブルーな気持ちで過ごした記憶があります。

ただ今では「あの時辞めなくてよかった」と心底思っています(笑)。7年企業で働いたことで、ものすごくキャリアが身につきましたから。その経験を経たことで「人事の仕事を柱にすればメシは食っていけるな」と思えたので、独立したわけですけど、あの時、なんとなく会社を辞めていたら、今どうなっていたかを考えるとゾッとします。

西田さんから見て、この「無業社会」を少しでも緩和するためにできることって何だとお考えですか。

西田:今お話したように誰でも無業状態に陥る可能性はあるわけですが、統計的に言うと、無業状態の人たちは普通自動車の免許証のような、海外で言えばソーシャルセキュリティナンバーに当たるようなものを持っていない率が高いんです。日本では免許証は、身分証明証としての役割を果たしますから、それを持っていないとアルバイトなどでも通りにくかったりします。それから、PCのスキルをまったく持っていない人が多い。経済的な事情などで、そもそもPCに触れたことがない人も結構な割合でいます。

城:いわゆる「働いていない若者」は、一日中パソコンに張り付いているイメージがあったので、むしろPCスキルが高い人が多いのかと思っていたんですが、そういうわけでもないんですね。

西田:そうなんです。僕が主張したいのは、とりあえず「入り口の平等」をできるかぎり確保しましょうよということです。今の行政による就職支援というと、どうして「資格取得を手助けします」といった均質的なものになるのですが、それ以前の「最初の一歩」に目を向けて欲しい。つまり、家庭の経済状態が悪かろうが良かろうが、望めば普通免許を取ることができたり、PCを最低限使えるようにする機会を用意する。まずは、そのレベルの土台をしっかり築くことから始めないと、いくら「資格取得支援」をしても意味がないと考えているんです。

西田:それから「たとえ無業状態に陥ったとしても、携帯電話を持っている人は、無業期間が短い」というデータもあります。つまりこれは、仕事を得るためには「誰かとコミュニケーションを取る」ことが非常に大きな要素になりうると言えます。誰かに相談したり、助けを求めたり、もっと直接的には就職活動の電話をかける相手がいる人ということですね。

学校を中退していたり、学歴が高くてもゼミに入っていなかったりする人は、言い換えれば、「人と接触する機会」を失ってきているわけです。それがある閾値を超えてしまった人は無業状態から抜け出しにくくなっているというわけですね。人間関係、社会関係の形成と、就職活動を、並行して支援していくことの重要さが示唆されます。

城:その「資格取得には意味がない」という話と、「コミュニケーションを取ることこそ大事」という話は、失業問題でも同じことが言えますね。よく「どういう資格を取っていれば、職に困らなくなりますか」と聞かれるんです。でも企業の人事担当者の視点から言えば、資格所持者に対する特別なニーズはありません。つまり「この資格を持っていれば採用してもらえる」なんて資格はない。もちろん、持っていないよりは持っていた方がいい場面も多いと思います。

でも基本的に日本企業は、「仕事はOJTで教える」「資格がどうしても必要になれば、会社のおカネで取りにいかせる」というスタンスです。だから、資格よりもコミュニケーション能力が重視される。そしてコミュニケーション能力というのは、組織の中にいることで磨かれていくものですから、とりあえず組織の中で働いた経験を重く見られるんですね。

■ブラックでもなんでも、20代は実務経験を積むべし

城:おおげさな話でもなんでもなく、税理士でも、公認会計士でも、弁護士でも、その資格を持っているけれども28歳で職歴がない人と、まったく聞いたことのない中小企業でも実務経験のある28歳なら、人事は99%後者を採用したいと思うものなんです。

だから、反対に採用される側から考えれば、もし仕事を得たいのであれば、「組織に入ってキャリアを積む」ことが何より大事なんです。とにかく20代のうちに会社の中でキャリアを積む。別に有名企業である必要はありません。暴力団や犯罪行為をしている会社は別ですが、今世の中で問題とされているような、いわゆる"ブラック企業"と呼ばれている企業でも、私はいいと思いますよ。そもそもブラック企業を取り締まるはずの厚生労働省にしたところで、キャリア官僚は月に200時間残業をしている超、"ブラック企業"です。

結局、いわゆる"ブラック企業"と言われて叩かれているサービス業系の企業と、若手をバリバリ働かせる大企業のどこが違うかというと、大企業は35歳くらいになるとやや仕事の量が落ち着いてきて、40歳を過ぎるとふんぞり返る立場になる。一方で賃金は上がって、ポストや役職もつく。でもサービス業系の場合には、ずっと過酷な労働状態が続く。それだけのことです。

西田:逆に言えば、「30代以降に自分の好きな働き方をするために、20代の間は仕事の基礎を身に付けることが大事なんだ」と割りきって考えれば、どこの企業に入るかはそんなに気にしなくていいと思う。

「資格貧乏」という言葉があるんです。資格試験の勉強にのめり込んでしまって、たとえ受かったとしても、キャリア全体から考えると逆に追い込まれている人がいる。そういう人の中には、「組織に入ってOJTを積むことから逃げてしまった」人が多いと思うんです。資格の勉強は、コミュニケーションを取らなくてもいいですからね。

■日本型雇用が「採用のハードル」を上げている

西田:勤務先の大学では大学院のキャリア支援の担当をしているのですが、実は司法試験に失敗してしまったロースクールの卒業生が悲惨なことになっていることが問題視されています。学部からあわせて10年近く大学に通って修了したのに、現在の司法試験は受験回数に制限があるため、司法試験に合格できなかった場合には、工場でパンを焼くアルバイトにさえ受からなかったりする。

司法試験の受験者の中には、明らかに法律の知識は人よりもたくさん持っていますが、ヒューマンスキルと言いますか、人と一緒に働くにあたっての総合的な力が足りないと感じることはあります。ただ僕自身も彼らの気持ちはよく分かります。僕も、研究室よりも、自宅の、自分の机で仕事をするのが一番落ち着きますから……。

年功序列型賃金が基本とされている日本の会社では、年齢が上がっていくほど総合的に価値の高い仕事を担当できる、担当した経験を持っていることが期待されるわけですが、一方で、無業者の年齢もどんどん上の方にシフトしている現実があります。

つまり、年齢が高いほど、より高度な価値生産の経験と実績を持っていないと採用してもらえないし、転職も困難です。無業状態の人にスキルはまるで積み上がっていない。企業の求める人材像と、職を求める人の現実がどんどん離れていっているわけですね。これも無業者を苦しめている「社会の仕組み」の問題だと思うんです。現在の支援は、就職の入口への支援が中心ですが、高度なスキルや自己尊厳の修得にまでつなげていく連続的な支援が必要に思えます。

城:無業の人たちは、言い換えれば、「若い時の苦労」をする機会がない人たちとも言えます。そういう人の受け皿をどうするのか。海外だとそこに教育がはさまりますね。「今はよい職が見つからないからMBAでも取りにいこう」という話になる。そして、そこで培った人脈を次の職で活用したりする。でも、日本の場合は一度、会社組織からドロップアウトしてしまうと、たとえMBAを取ってきても、なかなか元には戻れない。

城:なぜかと言えば、終身雇用・年功序列のいわゆる日本型雇用が採用されているからです。この辺りは『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』でも解説しましたが、大企業や官公庁では、年齢が上がるにつれて賃金が上がっているので、年齢に相応しいスキルのない人は、“悪”なんです。30歳で職歴がない人は“極悪”です。だから、失業をしたり、無業の期間があって履歴書にブランクがある人は採用されない。

まず、戦後日本の雇用システムの大きな問題は、国が社会保障を企業に丸投げしてしまっていたことです。大企業は、社会保障の一環として、従業員を「終身雇用」することを義務付けられてしまった。「終身雇用」をしなければならないという話になれば、企業はよほど能力のある人しか採らなくなります。ある程度の年齢に達した失業者がなかなか次の職を得ることができなかったり、病気やケガをした人が無業者になってしまう根本的な原因はここにあると私は思います。

労働者を長い期間を預からなければいけないわけですから、企業としては保守的になるのが当然です。最近は、採用の時にメンタルトラブルを出しやすい傾向の人を試験で把握してはじく人事サービスが売り出されたりしていますが、こうした行き過ぎたサービスも、終身雇用が原因ですよ。

ではどうすればいいのか。社会保障を企業から切り離して、ある程度労働者を流動化する。そうすると、企業にとっては「採用する人材のハードル」が下がるので、失業者・無業者にとっても、相対的に状況はよくなる。

対談の後編は9月24日(水)に掲載予定です。